ある場所の話

2008年12月15日 ポエム
 子供時代は、道草の駅だった場所のことだ。
 改札を降りると、長い階段になっている。そこを降りて、そのすすけた町に紛れ込むのが好きだった。だから、駅からのその長い階段を下りるのが嬉しかった。たいていは、学校を(都内にある大学を)さぼることに決めて、家から一番近い駅とほど遠くないその駅で途中下車して、その日一日をファーストフード店で煙草吸いながら本読んでようと思っている。
 駅を降りると、駅前を通る車道をはさんで、すすけたようなさえない建物がちまちまと、しかし一枚岩のように迫ってくる。古いビルでできた城塞のような町で、駅前の辺りだけ、妙にごみごみして、迷路みたいになっている。パチンコ屋と魚屋の間の一階がシャッターを閉めたままの小さな建物の二階が、去年マリエンバートで見たかもしれない喫茶店になっている。ある日、ファーストフード店にも飽きた私は、迷路を彷徨ってたまたまその場所を見つけたのだ。それ以来、その駅は、どこをとっても、孤独で自由でプライベートな空間だった。
 この土日、かつての道草の駅に二日続けて降りていった。
 土曜は旧友と会うため、日曜は父の合唱を聞くためだ。同じ場所の意味合いがかつてとはまったく違ってしまった。
 その場所は、今は、親しい友人が勤めていてたまに一緒にランチする場所、家族が年末に集まって食事する場所、親戚や知人がアマチュアコンサートする場所になった。
 駅前の城壁の裏にある迷路はそのまま、とおりすぎて、オープンなスペースを行ったり来たりする。かつてのあの淀んだ場所に物理的に踏み込んだとしても、もう大した意味はないのだろうか。行ったり来たりしながら、また、今、この手が考えている。私の今は、昨日と今日よりも、あのよどんだ場所に近い気がする。

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