去年、新聞の書評でこの写真集のことを知った。
 「暗くもうろうとした画面のなか、煙突群が煙を吐き出し、一糸まとわぬ男がこちらを見つめる。斬新な男性ヌード写真で知られる著者が七年間撮りためた風景と人物写真の集大成だ。シャワーのようなテールランプ、ベッドでくつろぐ男のたばこの日。超小型カメラでとらえた光は濃い闇を引き立たせる脇役にすぎない。ざらついた紙の手触りが粒の粗い画面と相まって、見る者の感覚を強く刺激する。」日経12月

 これを読んですぐ、ああ、私の見たいものだ、と思った。
 すぐ、地元の図書館にリクエストして、さっさと大きいところからお取り寄せしてくれるだろうと思っていたら、やけに時間がかかる。確かめたら、その地元の小さな図書館が発注して買ってくれていたのだ。きっといろいろ装備に時間がかかったのだろう、やっと、昨日、借りて来れた。
 ざらざらする手触りの頁を繰りながら、そうだ、おなじだ、嬉しい、と思う。
 私も、野村佐紀子さんと同じように(同じようなんて僭越だろうか)、ずっと前から、だいたい思春期の始まり頃から、暗がりそのものに恋している。見ながら、ああ、そうそう、こういう薄闇だ、と思う。
 外がすみれ色に染まった車中の暗がり、ベッドの柔らかいくぼみに眠る闇、いつのまにか道に同化している闇に似た意識、お互いの影でつながってしまう身体。夜に近づくと、風景と身体はどうしてこう似てくるのだろうと思ってしまう。
 ほんとに若い頃は、父や母や家族の前では、こうしたことが絶対語りえないことだった。私がどこでもなく誰でもない薄暗がりに大恋愛しているなんて。
 この作家好き。キムギドクの『悪い男』の諸々の(岬や港や彼の身体の)シルエットと同じくらい好き。

以下覚え書き:
「野村佐紀子 1967年 山口県下関市生まれ。91年より写真家・荒木経惟氏に師事。主に男性の裸体を中心とした湿度のある独特の作品世界を追求し続ける。93年より国内はもとよりヨーロッパ、アジアなどでも精力的個展・グループ展を開催衣する。著書に『裸ノ時間』(平凡社)、『愛ノ時間』(BPM)、『闇の音』(山口県立美術館)、『黒猫』(t.i.g)、『tukuyomi』『近藤良平』(MATCH&Co.)などがある。」

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